知っておきたい!「抗ウイルス」と「抗菌」の違い
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、今まで聞いたことのない言葉や聞きなれない言葉を耳にする機会が増えました。似たような言葉も多く、その意味までは理解せずに感染対策をしている人も多いのではないでしょうか。今回は、感染対策用の製品で、よく目にする「抗ウイルス」や「抗菌」という言葉の違いについて分かりやすく解説します。
ウイルスと菌の違いとは?
抗ウイルスと抗菌の違いを知るためには、まずウイルスと細菌の違いについて確認していきましょう。
細菌とは
細菌とは目で見ることはできない極小生物で、大きさはおよそ1~10μmといわれています。ひとつの細胞しかもたない単細胞生物で、栄養源があれば自分と同じ細菌を複製して増え続けることが可能です。結核菌や黄色ブドウ球菌、肺炎球菌など人体に侵入し病気を引き起こす細菌がある一方、納豆菌や乳酸菌など人体にとって有用な細菌もあります。
細菌は皮膚の表面から体内まで、あらゆるところに存在し私たちの身体を守る役割も果たしてもいます。細菌は抗菌薬(抗生剤、抗生物質)にて退治することができますが、抗菌剤が効かない又は効きにくい薬剤耐性菌なども存在します。
ウイルスとは
ウイルスは、細菌とは異なり自分で細胞をもっておらず、タンパク質の殻の中に核酸が入っている構造体です。生物のかけらのようなもので、大きさは菌の1000分の1程度とされています。ウイルスによってはエンベロープという脂肪の膜をもつものもありますが、細菌に比べ構造はシンプルで細胞をもたないことから非生物とされる場合もあります。
ウイルスの核酸には、遺伝情報の伝達に関わる働きをするDNAとタンパク質合成に機能するRNAがありますが、ウイルスはそのどちらかひとつしかもっていないため自らDNAをコピーして増殖することができません。自己増殖することができないため他の細胞に入り込み、DNA又はRNAの増殖機能を利用して増殖します。
感染すると病気を引き起こすウイルスには、インフルエンザウイルスやノロウイルスなどが知られていますが、一般的な風邪も様々なウイルスが原因とされています。抗ウイルス薬はありますが数が少ない状態で、細菌に効果のある抗菌薬は、細菌とはウイルスの大きさや構造が異なるために抗菌薬は効きません。
ウイルスは死ぬのではなく不活化する
細菌は細胞をもつ生き物であるのに対して、ウイルスは生き物の抜け殻のようなものでウイルスそのものが生きているわけではないことから「死ぬ」ことがありません。ウイルスを無害化するためにウイルスを殺すことはできないのですが、感染力を奪うことは可能です。ウイルスの組織を分解することで、生物の細胞に入り込む力を失わせたり、細胞に入り込んだとしても増殖する機能を失わせたりして効力を発揮できないように働きかけウイルスを不活性化させることができます。
ウイルスを不活性化させるものとして、次亜塩素酸ナトリウムやアルコール(エタノール)を含む消毒液が代表的です。前述したようにウイルスにはエンベロープという脂肪でできた二重膜をもつエンベロープウイルスとエンベロープをもたないノンエンベロープウイルスに分類され、エンベロープの有無で感染対策が異なります。
新型コロナウイルスはエンベロープウイルスに分類され、アルコールに弱い性質をもっていることからアルコールを含む消毒液による不活性化が可能であるとされます。ちなみにノロウイルスなどはノンエンベロープウイルスに分類され、アルコール耐性があるため次亜塩素酸ナトリウムでの不活性化が有効になります。どちらにせよウイルスに合わせた適切な方法でウイルスの外部構造を破壊し、本来の働きができないように不活性化することを抗ウイルスと呼びます。
抗菌機能ではウイルスは不活化しない!
最近は日用品や住宅建材など様々な製品に抗菌機能がついていますが、抗菌機能はウイルスにも効果があると思っている人も多いのではないでしょうか。しかし実際には、抗菌機能だけでウイルスを不活性化することは難しく、ウイルスを不活性化するためには抗ウイルス性が付与されていなければなりません。
例えば抗ウイルス成分の配合された塗料塗布したフロア材を使用した場合に、フロアに塗装された抗ウイルス成分がウイルスに接触しウイルスを不活性化させることができます。抗菌機能に付随して抗ウイルス機能を付与している製品も増えてはいますが、抗菌機能はあくまで細菌の繁殖を抑制する機能であり、ウイルスの不活性化を目的としたものではありません。混合しないように気を付けて製品を選ぶようにしましょう。
抗菌や抗ウイルスは同じような言葉に見えますが、対象としているものが異なります。体内に入り込み増殖することで病気を引き起こすとう共通点はあるものの増殖の手段も異なり、増殖を抑える手段も異なります。細菌とウイルスは別物であるということを理解し、正しく製品を選んでいきましょう。